喉元過ぎれば熱さを忘れる、とはよく言ったもので、毎年梅雨になると、私はこの季節がとても苦手だったと思い出す。
何と言っても湿気だ。部屋中の湿気がスポンジの様に体からエネルギーを吸い取っていく様で、毎日怠い。それに加えて気温の上昇で室内がサウナ状態になり、自粛期間中にぶくぶく太った私は、差し詰めセイロに入れられた肉まんである。
そして髪の毛が異常に膨らむ。シャワーを浴びてドライヤーをかけると、テロにでもあったのかと思うほど頭が爆発する。朝などはもっと酷い。寝ぼけながら洗面所に入ると、麻原彰晃が鏡に映っていて、びっくりして二度見をするレベルだ。

何年か前に親友のマクラとチーママ(両者仮名)の三人で飲みに行った。いつもの様に髪をセットし、二人の待つ飲み屋に向かった。
私が席に着くや否や、マクラがジッと私を見ている。挨拶もそこそこに以下の会話が続く。
マクラ「次、美容院いつ行くの?」
私 「明日行く予定」
マクラ「そう、良かった」
その一連のやり取りがあまりにもスムーズで、一瞬何が起きたのかわからなかった。まるで熟年夫婦の会話の様であった。
妻「今日、夕飯何にする?」
夫「カレーがいい」
妻「そう、わかった」
しかしすぐに私の髪型がディスられていることに気付いた。早急にカットが必要な状態だと言われているのだ。
何たる屈辱!!!この頭で何ヶ月過ごして来たと思っているんだ!
ちゃんと出る前にブローをして来たと伝えると、マクラは驚いた様子で「スタイリング剤を使っていないんだね!今度買ってあげるよ」などと言った。失礼な、こちとらヘアワックスもつけている。「そんな慰めはいらん!」と断ると、横でチーママが「買ってもらいなよ」とニヤニヤしながら言った。
先日同じメンバーで飲みに行く機会があり、この忌々しい記憶を思い出した。外出なので気合いを入れてコテを当てたが、その日は一日中雨が降っており、帰る頃には教祖様に戻っていた。
梅雨は苦手である。
